2018年は報酬改定がなされ、国からの“立地から機能へ”という強いメッセージが再確認された年であった。
そんな今年の調剤薬局業界を、以下総括していきたい。

問い合わせ件数が3倍!?めまぐるしく動く調剤薬局業界

報酬改定で加算された項目・減算された項目を分析すると、国の方針に沿って明らかな差がでている。それを受け、多くの薬局経営者の今後を考えさせられる年となったようだ。

その表れとして、当社宛の問い合わせ件数(譲渡検討等)が昨年比3倍を超えた。
お問い合わせの中には、『国の求める薬局作りをする自信がない。人材も集められない。さらには報酬減額や薬価改定が心配だから、数年後に考えていた引退時期を前倒ししたい』というオーナーもいらっしゃった。

譲渡を実行するか否かはそれぞれのタイミングがあるが、確実にいえることは“準備を始める企業が増えた”ということである。様々な選択肢の中から将来自社の取るべき方法を事前に把握し、良いタイミングで決断を下すための準備を始めている企業が増えているのだ。

大手企業は本業加速型M&Aで大型案件重視、小規模企業は売りづらい時代に

アインやメディカルシステムネットワークをはじめ、全ての上場企業・大手企業は積極的にM&Aでの出店をしたい意向がIRに表れている。たとえば、4月に公表された日本調剤の「2030年に向けた長期ビジョン」には同社のみでシェアを10%、売上は1兆円企業を目指すと発表している。このように、上場・大手各社は本業に集中する“本業加速型”での拡大成長路線に踏み出している。

しかし、そのM&Aへの姿勢については昨年と状況が変わり、集中率や店舗規模・店舗数等かなり案件を精査するようになっている。

実はこれについても報酬改定が絡んでいる。
ご存知のように、大手・準大手企業に対しては集中率85%以上の店舗を譲受ける場合、基本料が1をとれなくなり、それにともなって地域支援体制加算もとれなくなる可能性が高い。となれば1店舗単体での収益改善が容易ではなくなる(むしろマイナスとなる)。

そのため、複数店舗の案件によりいっそう重きを置くようになった。複数店舗であれば技術料が多少落ち込んでもドミナント戦略がとれ、コスト削減や薬剤師の調整等も行うことができ、1店舗を譲受ける場合に比べてリカバリーも早く、かつ打てる施策が多いというメリットがある。1店舗を10回譲受けることにくらべ、10店舗を一回で譲受けたほうがよいというほうに譲受け企業側は気持ちが傾いた一年であった。

現に、1店舗企業は徐々に譲渡がしづらくなっている。今後の改定次第では全く譲渡ができなくなる時代に突入するであろう。
ドラッグストア業界もかつては同じ状況であり、1店舗企業の譲渡が厳しくなった後は、複数店舗を持っている企業がだんだんと譲渡が難しくなっていった。今となっては50店舗以上の大きな規模の企業のみが譲渡対象になるというようになっている。
調剤薬局業界においても同じ軌跡をたどらざるを得ないだろう。

企業規模別M&A状況の変遷
企業規模別M&A状況の変遷 (日本M&Aセンター作成)


地域No.1企業の戦略的譲渡や後継者のための譲渡も

今年も昨年に引き続き多くの地域No1薬局や地方の中堅企業が大手の傘下に入った。

年表

どの企業も財務内容や収益面では申し分ない、さらには薬剤師も豊富に抱える企業である。これらの企業は自社での哲学や方針が明確であり、薬局機能としても非常にレベルの高い企業である。それらの企業がどんどん大手の傘下に入っているのは、先に述べた大手企業の状況の変化も関連するところがある。大手企業は上述の通り、中堅企業の譲受に必死であり、その譲受け条件や譲渡企業の要望に対して非常に柔軟になりつつある。そのため中堅企業としても、ニーズに合致した企業が見つかりやすくなってきている。

『M&A譲渡をしてもこのまま残って経営をしたい』
『親族や腹心を次期社長にしたい』
『大手の経営資源を利用して自社を発展させたい』

このようなさまざまな社長の要望に応えようとする譲受け企業が多いのが現状だ。

譲渡を経験されたとある中堅企業オーナーは「大手と一緒になって一番変わったのは、リスクをとることができ、チャレンジができるようになったこと」とおっしゃった。
少し前のM&Aのイメージ(M&Aによって社長は交代、看板も変わる)は、実態とは大きくかけ離れている。

メディカルシステムネットワークのグループ入りした青森のアポテックはまさにその例である。
経営陣はそのまま続投し、社名はそのまま残り薬局の看板も変更することはなく今も営業している。
大手企業によっても細かい考え方は違ってはくるが、それぞれの地域に根差してきた譲渡企業の良さやブランドを大切にする傾向が、現在の調剤薬局業界におけるM&Aの主流だ。

ファンドやブローカーの出現!正しいM&Aを再認識する必要性が高まる

業界再編が進んでいる調剤薬局業界では、そこに商機をにらんだM&A仲介会社が多く参入してきている。これについては歓迎すべきことだ。それによって再編はさらに進み、業界は活性化していく。

参入企業が増えていく一方、その”質”については十分注意をしなければならない。
決算書や月計表のみを見て、高値で譲渡できることをアピールするブローカーなどは要注意である。また、最初だけ高値で提示をし、基本合意で独占交渉権を得、その後買収監査でもっともらしく減額を要請するファンドなども横行している。
M&Aを活用する企業が多く参入することは歓迎すべきだが、正しい手順、正しいやり方でM&Aを進めなければ決してうまくいかないのがM&Aである。業界全体がその認識を高めて注意していかなくてはならない。

2019年は10月の薬価の改定、消費税の増税、次回の報酬改定への議論がスタートと、まさに業界の変化が大きな年となるであろう。常に先を見据え、リアルタイムで情報を収集し、適切な経営判断をしていっていただきたい。

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AUTHOR PROFILE

業界再編部 シニアディールマネージャー
調剤薬局業界責任者

山本 夢人

東京大学工学部卒。野村證券株式会社、土木資材メーカーの副社長として経営に参画後、日本M&Aセンターに入社。経営者としての経験をもとに中小企業オーナーの立場に立ったM&Aを提案。現在は調剤薬局と運送業界の責任者としてM&Aを支援している。石川県出身。