近年、調剤薬局の譲渡相談件数は、増加の一途を辿っている。

2017年と2018年において、当社における譲渡相談契約数は1.5倍、メールや電話による問い合わせでは3倍と、2018年に飛躍的に件数が伸びた。
この背景として報酬改定の存在が大きい。

調剤薬局企業各社は、2年に1度の報酬改定によって変化を求められてきた。
その中でも2018年の改定は、40万回ルール、かつ集中率85%への基準引き下げなど、衝撃的な改定内容となり、それに伴い各社のM&A戦略も明確に変わった。
大手企業では単独店舗の譲受よりも複数店舗、直近では地域を代表するようなチェーン薬局の譲受へとM&A戦略をシフトしてきている。
また、中堅企業においては譲受と共に大手企業への戦略的な譲渡も増えてきている。

調剤薬局業界は今、新たなステージに進み出している。

 


報酬改定による影響で株価が大幅ダウン

ここで、この報酬改定による失敗事例を1つご紹介したい。

年間売上1.3億円、集中率88%、処方箋回数1,100回/月という調剤薬局1店舗のオーナーから2018年1月に譲渡相談を依頼された。
株価試算(※下図参照)をすると、株価基準となるEBITDAは2,300万円、倍率はあくまで譲受側の期待度によるが、例えば4だと想定して2,300万円×4。営業権で9,200万円という条件で多数の大手企業からの条件提示が見込まれた。



しかし、2018年2月7日に報酬改定の情報が公開され、状況は一変する。

集中率88%のため、大手企業への傘下入りと同時に調剤基本料が1から3に下がってしまい、また施設基準加算の廃止に伴い新設された地域支援体制加算も取れず、大幅な減益が想定されたのである。
当然それに伴いEBITDAも1,474万円と下がってしまった。

仮に先程と同様の倍率4を掛け合わせても5,896万円と大幅な減額となってしまったのだ。

財務内容や経営が変わったわけではない。
タイミングが少し変わっただけである。
しかし、タイミングの違いだけで、大きく株価・条件が変わってしまったのだ。

 


業界動向をしっかりと見極め最善の決断を

調剤薬局業界の業界再編は今後さらに加速していくことが予測される。
業界再編とは「1社ではできないことを、集まることによって実現する」ことである。この業界再編のタイミングを逃さないことで、優位な条件での譲渡も可能である。

実際に、各地で地域No.1と呼ばれる代表的な薬局が戦略的に動いている等、M&Aを活用して成功されているケースが年々増えている。
事業承継やM&Aに関するお話をしていると「私は65歳になったら譲渡を考える」というオーナー様がいらっしゃるが、オーナーの年齢を基準に譲渡タイミングを決めてしまうのは、結局そのオーナーのみの満足感しか得られない結果になってしまう可能性が高い。

M&Aはタイミングが重要である。

ひと昔前、地域のドラッグストアではM&Aが頻繁に行われていた。しかし現在となっては、地域No.1のドラッグストアチェーンでないと譲受企業が出てこないという時代になっている。
オーナーが譲渡したいと決断しても、相手が見つからないのである。このような状況になってしまうと、最終的には廃業の選択肢しかなくなってしまう。

調剤薬局業界の話に戻すと、今、業界としては成長期から成熟期に向かっている最中である。
調剤薬局の経営者として何を実現したいのか。
経営の志は何か。
大事にしたいものは何か。
今一度考えてみていただきたい。

社員、患者さまの生活、地域医療の発展、多くの経営者がこれらを中心軸において将来を考えているだろう。
しかし、どんなに患者さまから愛されている薬局であっても、経営が難しくなり潰れてしまっては、元も子もない話である。

M&Aはタイミングが重要であり、オーナーの年齢を基に考えるのは危険である。
業界の状況・自社の立ち位置を冷静に見つめ、今から何ができるのかを考え、行動を起こすことによって、社員にとっても、患者さまにとっても、地域医療にとっても最良と言えるような選択肢が得られるのではないだろうか。

 


消費税増税や報酬改定といった大きなイベントが今後も控えている。
これらが調剤薬局の経営に大きな影響を与えることは間違いない。
過去からの延長線上にいては失速してしまうことは自明であろう。
時代・環境の変化に対応し、企業として成長し続けていくための戦略を、経営者として様々な視点から考えていくべき時代に突入しているのではないだろうか。

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田島 聡士

プロフィール
明治大学理工学部卒業後、広告会社にて展示会の企画・立案。日本M&Aセンターに入社。調剤薬局業界の再編にかかるM&Aを専門とし、多くの案件を成約に導く。主に岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県・新潟県・茨城県・神奈川県・愛知県・岐阜県の調剤薬局を担当している。